第一話

明治・日本
地上には約3311万人もの命が存在している。
この地上の何処かで誰かが生まれた時、何処かで誰かが死んでいる。
命ある者は誰もがやがては死を迎えるものだ。
では死を迎えた者の魂は果たして何処へ逝くのだろうか。
『天国』や『地獄』と呼ばれる場所だろうか。否。それは人間が創りだした架空の存在にすぎない。
魂は皆、老若男女・善悪・生前の行いなど関係なしに『冥界』へと逝く。



そして死期を迎えた魂を冥界へと導いてやるのが死神である俺の仕事だ。

死神はたいていが一人で行動している事が多い。
死神はそれぞれ各担当の場所を指定されているからだ。

俺はここ、京都を担当している。そして今、死期を迎えた者の魂を狩りに行くところだ。
死期の近い人間からは死神にしか見えない『死気(ようするにオーラの様なもの)』が見える。
俺達はそれを感知して魂を狩りに行くわけだ。
「お、ここか。みごとな造りの家だ。あそこで寝ている爺さんだな。」
広々とした和室には床の間があり、そこには高価そうな年代物の壺、古代中国の山々を描いたような掛け軸が飾られてあった。そして、障子貼りの窓の傍らでは一人の老人が横になって寝ている。
「……ん、…なんか寒いと思ったら窓が開いていたのか」
老人は窓から入る冷えた風に気づき目を覚ました。窓を閉めようと、凍えた体を必死に起こす。
体の節々に痛みが走ったが、11月の冷たい風をあたり続けるのは耐えられない。
窓に手を伸ばそうとした時、背後から声がした。
「爺さん、あんたの魂を狩りに来た」
窓を閉めようとした手をピタリと止め、老人は背筋を強張らせて背後を振り返った。
「なっ、だ、誰だお前はっ!? どこから入った?! 門番がいるから勝手に出入りできないはずだぞっっ」
背後に立っていた男は十代後半から二十歳にかけての年頃だろうか。妙な格好をしている。左手には大きな鎌をきらりと光らせていた。
「俺の姿は死期の近い者しか見えない。俺は死神だ。」
「なっ、死神だと?!ふざけた事をっ。儂が死ぬと言うのか!? 冗談はよせ!! 人を呼ぶぞっっ」
「死期を迎えた者は狩らなくてはならない。それが俺達の仕事だからな」
そう言うと、左手に持っていた鎌を両手で抱え、老人をめがけ振りかざした。
「やっ、やめろっっっ。ぅわあああ"あ"あ"〜〜っっっ」
一瞬閃光が走り、鎌は宙を弧を描く様に、老人の体を通り抜けた。
肉体を離れた魂は鎌へと吸い込まれていく。
死神の持つ鎌は、冥界との媒体になっている。
抜け殻となった老人の肉体はバタリと布団の中へうずくまった。
「さて、と。……ん?…北の方角にも死期の近い人間がいるな…」

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