第ニ話

「うーん。今日は一段といい天気だ」
地上を足下に、陽の光を浴び、頭の上で両手を組んで背筋を伸ばしながらあくびをした。死神も人間ほどではないが、多少の睡眠は必要なのだ。
「さて、と。昨夜から感じる死気のある方角へ行ってみるか」
北の方角へと体を向け、死気の感じる方へ迎った。
あまり強く死気は感じられない。まだすぐには死ぬ人間ではないということだろう。死気は死を迎える七日前からみえるものだ。
死期の近い人間のもとへと迎ながら、空の上から地上の人間の様子を眺めていた。
俺達死神は、魂を狩る時以外はこれと言って他にすることがない。退屈だ。だからこうして、よくいろんな人間を眺めている。人間はみていて飽きない。
誰かのために泣いたり、怒ったり、喜んだり。時には互いを助け合う。 人間がうらやましい。
誰かのために何かをする、そんな人間達をみていると自分自身の存在に疑問さえ覚えてくる。
でもそんなことは頭の奥深くに押し込める。いくら考えたってどうしようもない。
そういえば昔、あいつがこんなこと言ってたっけ‥‥‥

『生があるから死がある。死があるから生がある。人間も死神のお前達も、互いのどちらかが存在しなければ、どちらも存在しえない。そう言った意味ではお前達死神も人間と変わらぬ存在なのかもしれんな…』
『じゃあ、あんたは?』

そう問うと何も答えずに笑った。 俺以上に生きている、あいつにさえも己の存在に答えを見いだせない。
そもそも答えを求めること事態が愚かというものだろう。結局は今、己の成すべき事やるだけだ。

「ん、この辺か。……あの家から死気を感じる…」
死気の感じる家へ迎、死期の近い人間のいる部屋を突きとめた。
その人間のいる部屋には廊下をはさんで中庭があり、庭の中心に位置する木の枝に腰掛けた。
部屋を仕切っている、襖の一部にはめ込まれたガラスを通して向こう側が見える。
中にいたのは若い女だった。蒼白の顔に並ぶ二つの大きな黒い瞳が印象的な。年の頃は十六、七。
病に冒されているのだろうか。
「(余命七日……か)」

今日は、寝たきりで部屋の中ばかりにいる私の眼には眩しいくらいの晴天。
布団の中で横になると、襖のガラスから空に広がる青がよく見える。
そのままじっと空を眺めていた。
すると突然襖が小さくカタカタと、何か言いたげに揺れ動いた。
「……風…?」
彼女は布団の中で身を起こして、肩掛けを羽織って立ち上がり、襖に手をかけた。
日差しは暖かくてもやはり十一月だ。外から吹き込んできた風は冷たく、身を震わせた。
顔を上げ、正面にある庭の木に目をやると、その木の枝にはこちらを見ている男の姿があった。
「…あなた……誰……?」



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